神田松之丞の漫談「宮本武蔵」の台本書き起こし

講談師:神田松之丞
日本講談協会・落語芸術協会所属
活動時期:2007年~
本名:古舘 克彦(ふるたち かつひこ)

神田松之丞の漫談「宮本武蔵」
ENGEIグランドスラム(2018年4月7日放送)より

神田松之丞「宮本武蔵」

え~一席申し上げますけども講談ってのは歴史的な物語を読むそういうものなんですけどもね。
あのこれ座った瞬間に分かったんですけどお前誰だ?の空気半端ないんじゃないですか?
あの…やりづれえわ!
あの正直…俺と志らく師匠の浮きっぷり半端ないですよ。
というわけでね宮本武蔵の話をやろうと思いますけれども…。
宮本武蔵の話なんですがたぶん聞きなじみない人多いと思うんですけどねいいところでね物語が終わるんですよ。
絶妙のタイミングで終わるんです。
さあいよいよ物語はここから面白くなるわけでございますが何と何と!お時間がいっぱいいっぱいという…。
絶妙のタイミングで切れるというそこをちょっと楽しんでいただければなと思いますが…。
播州舞子ヶ浜といいます所は大変景色のいい所でございまして淡路島が一望できる砂の美しさ波の美しさまた格別でございます。
ここへやって参りました宮本武蔵。
ちょうどよしず張りの茶店がありましたので武蔵は縁台に腰を下ろし景色を眺めながらこう渋茶を飲んでる。
そのうち次第に日が暮れかかってくる。
勘定は幾らだ?
へいありがとうございます。150文頂きます。
おうそうか。ではこれ置くぞ。へいありがとうございます。
またどうぞお越しくださいまし。
亭主の世辞を後に聞いて今武蔵振り分けの荷物を肩に掛けようといたしました。
するとそこへ1人の虚無僧が入ってまいりましたんで弾みで荷物の1つがバチン!と虚無僧の天蓋の端に当たる。
思わず武蔵とんだ失礼をいたしました。
どうぞご勘弁にあずかりたい。
丁寧にわびて出ていこうとしたときだ。
待て…待て!その虚無僧が怒鳴ります。
何かご用でござるか?
何だ?何かご用でござるか?
黙れお前…人に物を打ち付けておいて「何かご用でござるか?」って挨拶があるか。
無礼なやつだ勘弁ならん。
尋常に勝負をしろ!激しい声です。
武蔵ずいぶん乱暴な虚無僧があるものだなと思いましたがここは自分が悪いんですからまた穏やかにこれは失礼をいたしました。
過ちで致しましたこと故どうぞご勘弁くだされ。
ならん。
それではこれほどお頼み申しても…。
ならん!外へ出て勝負をいたせ。
ここまで言われては武蔵も我慢できませんからよろしいさほどまで事を好むのにはしょうがない。
お相手いたそう!おうよく申した。
さあ表へ出ろ!ってえと虚無僧天蓋をかなぐり捨て尺八左手に持って表へ飛び出しました。
表へ通り掛かった旅人たちいや~ケンカだケンカだ侍と虚無僧のケンカだわい!
いってみろいってみろ…!
見る見るうちに黒山のような人だかりでございます。
相手が虚無僧でございますから武蔵も真剣は使いませんで稽古用の木剣を袋から取り出しますと1本を前1本を頭上高々天地陰陽活殺の構えだ。
虚無僧は尺八持ってぴたっと中段に構えますがその顔つきのすごいこと。
芝居や映画の敵役のような恐ろしい顔で…。
貴様2刀使うか…さては宮本武蔵だな?
聞いた武蔵が驚いた。
自分の名前を一目で当ててしまった。
にやりと笑ったかの虚無僧。
宮本武蔵とあらば相手にとって不足はない参るぞ!
自分を武蔵と知ってなおも勝負しようというのはよほど腕に覚えがある者に相違ない。
そう思ったんで武蔵も油断なくじり…じり…と身構えておりますうちに虚無僧の体ひらっと翻った。えい!と裂帛の気合。
心得たとばかり武蔵左剣を持って相手の尺八をぴしーっ!
払いましたときに尺八の根方からガラガラガラガラ…音がして何かが飛び出してきた。
ハッと思って武蔵2~3足後へ下がると虚無僧尺八左の手に右手には鎖を持ってその先に付いた分銅をクルクルクルクル回しながらこちらの様子をうかがっております。
いまさらのように武蔵気が付きましたがその尺八の頭には刃が付いていて鎌のような形をしてる。
このとき武蔵ハッとしたというのはかねて武芸者の名人それから鎖鎌の名人で毒虫とあだ名される山田真竜軒という者がいる。
さてはこの男がその真竜軒だなと思いましたんで油断なくじっ…じっ…と身構えてる。
でこれお客さまほとんどの方ご存じないと思うんですが鎖鎌という武器は大変ひきょうな道具だとされておりこの鎖の先に付いている分銅に絡まれますとそれまで。
得物に絡まれれば得物パーンと取られてしまう。
剣に絡まれれば刃がこぼれます。
また体に当たれば…。
当たり所によって即死だ。
ですから相手の分銅をかわすより他に方法がありません。
その厄介な得物を持って天下に名人といわれた真竜軒。
右手に鎖を操るとその先に付いた分銅をぶんぶんぶんぶんうなりを生じて振り回し始めた。
そのうちにびゅーんと打ち込んでくる。
この…速いの何の!
まるで武蔵1人で2人を相手にしているようでございます。
後へ後へと下がってくる。ひょいと後ろを見ると崖の上だ。
前を見ると真竜軒後ろは崖。
絶体絶命しまったという顔の色が武蔵に表れたんでございましょう。
真竜軒これを見逃さない。
にやっと笑ってぶん!ぶん!ぶん!ぶん!
先ほどより一層強く振り回しますとびゅーん!と放ったこの最後の一投が速いの何の。
下から上へ突き抜けてくるような武蔵の心臓を突き貫かんと土煙を蹴立ってスッスッスッスーッて上がってきた!
武蔵これに対して体が反応していたんですね。
左剣でぴしーっと受ける。
鎖が付いているんでガラガラガラガラ…っと絡まった。
しめたとばかり真竜軒。
気味の悪い笑いを浮かべて両手でその絡まった鎖を手繰り寄せ突然グイッ!
強く引いたときにそれを待っていたとばかりに左剣をスーッ離しましたからさすがの真竜軒よろよろよろ…。
2足3足後ろへたたらを踏むところ武蔵右剣をびゅんと投げ付ける。
心得たとばかり今度は左剣でもってえーい!
払いました途端に真竜軒の前から武蔵の姿が消えてなくなった。
なぜ武蔵の姿が消えてなくなったのか?
物語はここで終わるということになっておりましてこの続きはまた私を追っ掛けていただくということにいたしましょうか。
山田真竜軒の一席。失礼をいたします。

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