古今亭菊之丞の落語「愛宕山」の台本書き起こし

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落語家:古今亭菊之丞
三木プロダクション所属
活動時期:1991年~
本名:小川 亮太郎(おがわ りょうたろう)

古今亭菊之丞の落語「愛宕山」
桂文枝の演芸図鑑より

古今亭菊之丞「愛宕山」

え~一席おつきあいを頂きますが。
今大河ドラマ「いだてん」という番組がございますけれどもね
落語家役の方がいっぱい出てくるんでございますが。
その俳優さんに落語教えているのが実は私なのでございますよ。
「え~!」って皆さんあのね…。
言っときますけど姿は一切出てきません。
オープニングに名前がちょろっとだけ出てきますんでね。
ぜひ見て頂ければと思うんですよ。
この間こんなこと言ってましたら私のお客様「おいお前見てたけどなお前の名前全然出てこねえじゃねえか」ってこういうお客様いたんですけどその方は放送中にまばたきをした方でございます。
それぐらいちょっとしか出てこないんですけれども。
一つ落語でおつきあいを頂きたいと思いますがこれはある東京の旦那でございましてお金と暇があるのに飽かせましてこの旦那が京都見物。
一八という幇間を一人連れまして京都の町なかを遊ぼうって。
夜は何をするかってえともうお約束でございますな。
京都ね祇園先斗町なんてとこ行きまして向こうの舞妓さん芸子さんあげてどんちゃか騒ぐ。
昼間は何をするかといいますとこの引き連れたこのね芸人みんなでもって京都の町なかを見物しようといういわゆるお金持ちの遊山旅というやつでございました。
今日は一つ愛宕山へ登ろうということになりまして中腹でございますこの試みの坂なんてえとこ行きまして大将の前ですけれどもね「いや~いい眺めですな」。
いや私正直言ってねここまで来る前大変くたびれてた。
この眺めを見た途端にこの疲れがす~っと消えてなくなるってやつでございますよ。
「あ!大将あの川の流れ何ですか?え?あれ鴨川ですか?あ~上賀茂に下鴨ってんでございましょ。
でこっち…あ!あっちは何すか?あっちは。
桂川?なるほど。流れを見る…こうねか…つ…ら…って流れてるようにね思えば思えますでしょこれ。
あ!あっちの塔は何ですかあっちの塔は。
あれ清水様?は~なるほどこないだ上がった清水様がああいう見当になりますかね。
あ!大将崖の下…崖の下にこうね的が出てる的が。あれこう何か大弓か何か?」。
「大弓ってやつがあるか。あれはお前かわらけ投げというんだ」。
「かわらけ投げと申しますと?」。
「こらお前に分からない。土で焼いた皿をなあそこへ投げて当てるっていう遊びだ。
まあいろいろ名人がいてな来月の8日にそのかわらけ投げの大会っていうのあるんだけどその中にな塩煎餅をあの的へ当てるって人がいる。
俺は偉いと思ってなうん。俺は…今日は逆をやろうと思ってな。
重たいものを…投げようと思って…お前に見せようと思ってな。
おいこれを見ろよ。これ見ろ」。
「何すか?それは。え?それ何すか?小判ですか?
それ何?おもちゃじゃないの?本物ですか?それは。
何枚あるんですか?それは。え?30枚?
それを崖の下にこうやって投げて…あんたおよしなさいよ。
そんなばかばかしいもったいないそんな無駄な…」。
「おい何を言ってんだ?お前は。え?『もったいない』『無駄』お前たちとこんなとこで遊んでること自体がそもそもの無駄なんだよ。何を言ってんだ?ええ?お前たちに遊びの味が分かってたまるか。
これはお前に見せようと思って持ってきたんだ。
この小判をな…えいよ!まずい!
そらっ!あ~どうも当たらねえな。どうも…よっと!
あ~いけねえねどうも。こっちからこうやって投げてみるか。
こうやって…よっと!あ~駄目だな。
う~んやっぱりこの重さが違うと…あ~いけねえな。
やっぱりこっちから投げてみるか。こういう具合に…そらっ!
うん!だんだん形がついてきた。そらっ!よっ!そらっ!よっ!」。
「ちょっとあんたおよしなさいよ。そんなもったいない!
小判をそんな崖の下に投げちゃってどうするんですか?
投げるんだったらそんな下へ投げないで私のここへ投げて下さいここへ。
およしなさいそんなもったいない」。
「うるさいホントに!黙ってろ!そらっ!よっ!そらっ!」。
「ちょっとおよしな…あ~っと!」。
「投げちゃった…」。
「『投げちゃった』ってあなたこれ一体どうするの?」。
「どうするって…俺が投げた」。
「投げたのは分かってますけど谷底を通った人はこれを拾うでしょ?」。
「そりゃ拾った人のもんだよ」。
「拾った人のもん?じゃあ仮に私が拾いましたら?」。
「貴様のもんだ!」。
「私のもの!よっ!あら~。こりゃ深いねこりゃ…こりゃ深いよこりゃ…ええ?
あ!茶店のおばあさんこのね谷の深さはどのぐらいあるんですか?これは。え?80尋?
じゃあこれが80かい?これ…。こりゃ深いよこりゃ。
これ…裏山回ったらどのくらいかかるんですかね?
4里と28町?今日間に合わないねこれは。
あ!茶店のおばあさんそのね茶店の傘をねこっちへ貸して下さい」。
「お前その傘借りて担いでどうした?」。
「私はこの傘でもってねこの谷を飛び降りる」。
「おいおいおい!お前そんなことできる…」。
「できるかって人間やろうと思えば何だってできる。
特に人間金もうけてってことについちゃあねやってやれないことはないですから。
私はこの傘を持ってね谷を飛び降りますから。皆さんも見てておくんなよ。
まいりましょういきましょうそらっ!ひいのふうのみ…っと。
こりゃ深いねこりゃ…こりゃ深いよ。
え?そうだえ?目を開いてるからいけない。
そりゃそうだ目をつぶっちまえばこんなものは怖くない。
目をつぶって目をつぶってひいのふうのみいっと
目を開くねこれは。目を開きますよこれは。ええ。
人情だから。そうだ後ろから駆け出していこう。
勢いつけてねえ後ろから駆け出して目をつぶって後ろから駆け出してひいのふうのみい!」。
「おい!繁!繁!」。「へいへいへい何でも」。
「お前な一八の背中後ろから一つドーンと押してやれ」。
「そんなことしたら兄さん下落ちて死んでしまいます」。
「死にゃあしないよ。傘持ってるもの。大丈夫だよおめえ。後ろからしゃれでチョンとやってみなよ」。
「しゃれにって旦那はん…やりまっせ」。
ってひどいやつがあったもんだ。
傘持ってうわ~っとうなってるところを背中を一つドーンと突いた!風切ってスーッ!
「お~い!降りる降りる降りる…すごいな。おいみんな見てるか?」。
「『見てるか?』って兄さん下落ちて死んでもうたらどないしまんの?」。
「それは分からないそれは」。「分からへんって…」。
「うるさいねお前は。やっちゃったものはしょうがないじゃないかホントに。
私はただ『後ろから押してみたら?』って言っただけじゃないか。
押したのお前なんだから。お前責任をとれ」。
「そんな殺生な…」。「うるさい!みんな黙って…」。
「よし!降りた!降りたよ。おいみんなでもってな一八のこと呼んでやれ」。
「一八!」。
「いっぱっつぁ~ん!」。
「一八おっしょは~ん!」。
「一八!」。
「へ~い!へ~い!」。
「けがはないか?」。
「へ?けが…あ!おら降りたんだ!ありがたいありがたいけがけがけが…ありがたい!けがありませんよ~!」。
「金はあるか~?」。
「へ?金!そうだ!俺金を拾いに降りたんだよここまで。金がね…あった!ありました!
あ!ここにもあった。あこんなとこにも…。
大体同じ見当に放ってくれたんだ。ありがたいね。
何でも人間ね冥利ってえものを知らなきゃいけませんよ。
私はこの金を元手にね銀行を建てますよ銀行を。
一八銀行か何かいってありがたい…。あ~あ~あ~。
こんなとこにもあった。ここにもありました。
あこんなとこにあった。フッフッフッ!
ひいふうみいよいつむなな…う~ん…フッフッフッ!
ひいふうみいよいつむなな…う~ん…。
あ…あった。
あ!あ!あった。
あった…フッフッフッ!ひいふうみいよいつむ…。
2枚足りない。2枚足りない。
この場合の2枚…あ!
そらっ!ヘッヘッヘッ…フッフッフッ!
ひいふうみいよいつむ…よし!30枚!30枚ありましたよ~!」。
「みんなお前にやるぞ~!」。
「ありがとう存じます~!」。
「どうして上がる~?」。
「え~!あ!こりゃえらいこと…」。
「欲張り~!オオカミに食われて死んでしまえ!俺たちは先行くぞ!」。
「ちょっと待って下さい!待って下さい。
あなた国元を出る時には一緒に出てきたんじゃありませんか。
私すぐ上がっていきますからね皆さんも大将行かないように止めといて下さい!こりゃえらいことになった」。
やっこさんしばらくうなっておりましたが何を思ったものかくるくるっと素っ裸になります。
芸人でございます。安物ではございますが絹物を着ております。
羽織り着物帯長じゅばん。
ピー!ピー!
「おいみんな見てみろ。え?一八あんなとこで裸になって着物裂いてやがる。え?
あ~上がれねえと分かってあいつおかしくなっちゃったのか?あいつは。
あれ?そうじゃねえや。あ!あいつあんなとこで縄なって…えらいとこで内職が始まったな~」。
「冗談じゃないよ本当に。オオカミ出るったってホントにここオオカミ出ますよ。
私すぐ上がっていきますからね。皆さんも止めといて下さいよ。
すぐ上がっていきますから待ってておくんなさいよ」。
1本の長い縄がなえ上がりまして先の方に手ごろな石をこう…結び付けるってえとあちらこちらと見当をつけております。
京都にはご案内でもございましょうが嵯峨竹というその中でも一番太くて長いのに見当がついた。
今このなえました縄を下の方からぐる~んぐる~ん…。
ピューンと放ったかと思うとそれがスーッと伸びてまいりまして先の方へこつんと当たったかと思うとくるくる!
「よし!しめた!ここまでくりゃあなもう大丈夫だ。
そらっ!そらっ!そらっ!そら…そら…。
そらっ!そらっ!そら…そら…。
そら…そら…ハァ…ハァ…そらっ!そらっ!よっ!
いや~…
ハァ…ハァ…。
ハァ!
ほっ!くっくっ…そらっ!
よっ!そらっ!よっ…そら…」。
竹が満月のようにギューッとしなってる。
前の石へ調子をつけてポーンと蹴ったかと思うとつ…つ…つ…つつつつ…。ひらり!
「旦那!ただいま!」。「あ~!上がってきやがった。
えらいやつがあったもんだな。
おい一八俺はお前のことをな生涯ひいきにしてやるぞ!」。
「ありがとうございます!」。
「金は?」。
「あ~忘れてきた」。
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