笑福亭鶴光の落語「徳川300年」の台本書き起こし

上方落語家:笑福亭鶴光
松竹芸能所属
活動時期:1968年~
本名:小林 幸男(こばやし ゆきお)
全国人気DJ第1位
夜のレコード大賞最優秀新人賞

笑福亭鶴光の落語「徳川300年」
お笑い演芸館(2018年4月26日放送)より

笑福亭鶴光「徳川300年」

ホンマに高齢化社会でんな。
いやいや、皆さんの事言うたわけやないんですよ。
世間一般がそやというだけでね。
浅草寺お参り行ってきはりました?
ねえ、私も好きでねこの浅草がね。
あの雷門のちょうちん。あっこから、ずっと入ってきて仲見世、通ってこっち来るんですよ。
ただ、雷門のちょうちんのとこ行くまでが大変やねん。
あの、しつこい人力車の勧誘を振り切ってね。
なんべん、引っ張られるかわからんという。
まあまあ、そういうね仲見世なんか通って楽しい所へ来れるわけでございますけども今日は落語せえという事でね。
徳川300年ってな事を申しますね。
実際には、西暦1603年に始まって1867年、大政奉還されるまで約265年間続いたんやそうですね。
初代の将軍が神君、家康公。2代、秀忠、家光。
家綱、綱吉家宣、家継、吉宗家重、家治、家斉、家慶、家定家茂、15代目が慶喜。
ボ~ッと聞かんようにね。
私の落語は、聞くと勉強になるっちゅうんでねもう北海道から沖縄まで仕事、殺到してまんねやで。
なんか、ええ仕事おまへんか?
この中で7代目の家継という人は非常に不幸なお方で御年4歳で将軍になって8歳で、ご他界あそばされた。
当然のごとくお世継ぎがございません。
家康という人は用意のええ方でかねてよりこういう場合に備えて御三家というものをこしらえておいた。
後に御三卿というのも出来上がります。
御三卿というのは田安、一橋、清水これ、御三卿ですね。
御三家、これは、今日は頭のええ人ばっかりやから知ってはりますわな。学校で習いましたやろ?
御三家、ちょっと、ここでおさらいしときましょか。
御三家、舟木一夫。
尾張、紀州、水戸これ、御三家ですね。
これも同列じゃないんですよ。筆頭が尾張の徳川で62万石。
次いで紀州、和歌山の徳川が55万5000。
水戸がケツで35万石。水戸がケツだそうです。
だから、コウモンが出てくる。
それぞれの当主に8代目…継ぐ資格がございます。
この中で尾張と紀州は大納言という。
よっぽど小豆が好きやった。
尾張と紀州に甘納豆を持っていかれたんで水戸が納豆を作るようになったんですよ。
で、水戸ね、今日、いよいよ本日8代将軍が決まるという、その日御三家それぞれの当主が集まってまいります。
大本命の尾張家6代の当主で継友公朝早くから目を覚ましまして沐浴斎戒で身を清め自らは、立派なカゴに乗り大勢の供を従えまして江戸の上屋敷を出立致します。
途中、街なかを通った際に聞こえてまいりましたのが鍛冶屋さんのつち音。
このごろ、鍛冶屋さん見んようになりましたね。
真っ赤に焼けた鉄を金敷きの上にのせまして親方が、つちをトン。
合わせて弟子がテン、カンと打ち返す。
相づちというのはこっから来てるんですよ。
また1つ、賢くなりましたね。生涯学習は、これからですよ。
このテン、カン、トン、テン、カンテン、カン、トン、テン、カンっていう、つち音が朝のしじまを破って耳に心地よく響いてくる。
人間の感覚って不思議なもんでね1つの事を思い込んだりまた、悩んだりしてると何を見ても聞いてもそれに関わって見えたり聞こえたりするっちゅうねん。
お金がないないと悩んでると駅員さんが切符、切る音がシャッキン。
シャッキン。
今ならね、自動改札機やから間違いなかろうと。
切符、入れると、これが料金不足で音がすんねや。
ビンボウ。
あとからヒンコン、ヒンコン…。
尾張公、頭の中は、天下が欲しい。将軍様になりたいの一点張り。
元々、これ同じ徳川なんですがね本家と尾張家、仲悪い。あれ、なんででんねやろな。
どこの世界でも、ナンバー1とナンバー2っちゅうのはいがみ合うようにできてんねんね。
社長と副社長、店長と副店長校長と教頭、愛人と本妻…。
自然と派閥ができ…なんとかナンバー1の事を引きずり下ろそうとたくらむ。
上方落語協会ナンバー1。これが難しいねん。
みんな自分や思うとるからね。
ちょっと前までは文句なしに桂米朝師匠。
あの方、はなし家として初めて文化勲章もろたんですよ。
弾みとはいえ。いや、なんでも…。
あの師匠ね、見た感じが冷静沈着の紳士のようですがあれは、世を忍ぶ仮の姿。
ホンマはね結構おっちょこちょい。
これはねここだけの話でっせ。
よそ行って言ったらあきまへんねんで。
あの米朝師匠はね水虫の薬あるでしょ?
あれ、間違うて目に差しはったんでっせ。
考えられる?これ。普通ならば、洗えば取れるんです。
あの方は、えらい奥目でね。
我々、あの人の事を陰では石垣の蛍と呼んでましたからね。
奥で目玉がチカチカ、チカチカ…。
奥、チラチラ明かりが見えるっちゅうやっちゃ。
もう、半分、洗て取れたらあとの半分がジュワ~、ジュワ~と奥へ染み込んでひと晩、苦しんだんや。
人体の回復力って恐ろしいもんですね。
水虫の薬で目が治りましたんやで。
そこで、あの人が考えた。めちゃくちゃ頭ええから。
水虫の薬で目が治るという事は目薬を足に差せばと。
えらい事、考えるやろ?
足に差したら、また足がきれいに治ったんやって。
あとで聞いたら、足には魚の目があったという…。
やっぱりナンバー1なる人はどっか違うんですね。
ナンバー2の継友公たまたま藩の先祖が弟やったというだけで本家の7つ、8つの子に…麗しきご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ上げ奉ります、エッヘッヘッ。
おもろないわな、そら。それが思いもよらず宗家800万石、300諸侯を束ね武門の棟梁、上様の地位が目の前にぶら下がった。上様って、ええ響きでんな。
私も言われた事があるんですよ。
領収書もらう時。
上様でよろしゅうございますか?
そんな魅力のある地位が手を伸ばしたとこにある。
欲しい、なりたいと思うてる尾張公にこのテンカトン、テンカトンっちゅう、つち音が天下取る、天下取る天下取ると聞こえた。
これは、ずい兆。早、天下は我がものと定まった。
ニコッと、ほくそ笑んで千代田城にスッと入った。
もうすでに紀州公も水戸公もおそろい。
格上ですからスッと上座につく。
ほどなく、ふすまが開いて入ってまいりましたのは相州は小田原城主で大久保加賀守。
大久保加賀守、裃がピタッと板についております。
そら、板につくはずや。名物が、かまぼこやねんさかいね。
尾張公の前にスッと両手をついて7代の君、8歳にてご他界。
天下万民、撫育のおんため任官あってしかれと。
早い話が将軍なんなはれ。ならしてあげます。
うんって言いなはれうんって言いなはれ。
うんと、うなずいたらよかったんですが人間というのは悲しい生きもんでんな。
一番、考えたらいかん事を一番考えたら、いかん時に一番に考えてしまう。
待てよ。ここで俺がス~ッと引き受けたらこの2人は一体、どう思うやろ?
ああ~、飛びつきよった、なあ。
そんなにも将軍が…あさましいやっちゃ。
みんなで悪口、言うたろ。今晩、7時に東洋館の前に集合と。
こう思われへんかいなとかどうも、日本人ってねしょうもない見えを張り遠慮、謙譲、これを美徳と考える。
欲しいものは、素直に欲しいと言や、よろしいやろ?ね?
欲望は抑えない方がいいですよ。
特に男性の方。
満員電車で、きれいな女の子が立ってまっしゃろ。
誰かて触りたい。
これを我慢するとストレスがたまって胃潰瘍になる。下手したら手術せんならん。
手術を取るか、警察を取るか。
触ったら、よろしいねん。初犯は、罪が軽いのやさかい。
痴漢でも、上手、下手があって下手な痴漢やと触ろうかな、やめとこうかな触ろうかな、やめとこか思うてるうちに女の子に手つかまれて早よせんかい、待ってんのにって怒られるから。
継友公、しばしば置いて余は徳薄うしてその任にあらずとこう答えます。
もっともこれも、ちゃんと計算がある。
これは、1回は、断るもんや。
1回、断ったからといって、相手もそう簡単には引き下がらん。
そんな事言って、あんたがやるのが世の中が一番丸う収まる。
やんなはれ。もういっぺん、勧めてくる。
その時、うんと言ったらかっこええ。断るという美学。
わかりまんな?我々も、よくあるんですがね寄席が終わって楽屋へ帰ってくるとねお客様が訪ねてきて、いや~今日は、楽しい話、ありがとう。
これ、少ないけどね帰り、1杯、飲んでおくんなはれ。
紙に包んだ1万円札。
こういう事よくあるんですけどね。
楽屋、そこですわ。
これ、1万円やないといかんかっていうとそうでもないんですよ。2万でもええ。
3万なら、なおええ。
じゃあ、1万円以下じゃ失礼か。そんな事ない。
5000円でもええねや。
この際、3000円で手打とう…こんなもんやねなんぼ厚かましい私といえども一応、いや、そんな聞いていただいただけでもありがたい。
そんなお気遣いはどうぞ、ご無用に願いますと答えたからというてそれを本気にしてでんなあっ、そう、いらないのとスッとしまう。
これは、いかん。
あとで笑われまっせ。世間知らずやいうて。
言うときますけどねはなし家に笑われたらもう人生、終わりですよ。孫子の代までいう事で。
では、どうするか。誠にせん越ではございますが皆様方がさきざきで、しくじらないようにお教えを致しますといやいや、ほんのちり紙やがなと言いながら無理やりポケットにねじ込む。
これが世間の常識。
頭の中で繰り返していますか?
いやいや、ほんのちり紙やがなって言いながら無理やりポケットにねじ込む。
なんやったら声をそろえて言うてみますか?
いやいや、ほんのちり紙やがな。無理やりポケットに。
鶴ちゃん、ほんのちり紙やん。ワクワクしながら中開けたらホンマの、ちり紙やった。
こういう事はね、人間として絶対したらいかんですよ。
地獄に落ちまっせ。わら人形こしらえて五寸くぎ打たれて三日三晩、うなされて血吐いて死にまっせ。いいですね。ヘッヘッヘ…。
落語、どこまで…。ああ、そうそう。
継友公、そういう計算のもとには徳薄うして、その任にあらず。
もういっぺん推してくれるのを待ってますと大久保加賀守ははっ。スッと紀州公のとこ…行ったらいかん。
推さんかいな。言えない、つらいとこやね。
さあ、大久保加賀守、このあと3人に打診を致します。
この中で誰が8代将軍に決まったでありましょうかと肝心のとこですが、ちょうど私の受け持ち時間でございます。
この続きは、浅草演芸ホールでお聞きいただきたい。
どうもありがとうございました。

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