古舘伊知郎のすべらない話「「おき」と「ごと」の違い」の書き起こし

フリーアナウンサー:古舘伊知郎
古舘プロジェクト所属
活動時期:1977年~
元テレビ朝日アナウンサー
古舘伊知郎のすべらない話「「おき」と「ごと」の違い」
人志松本のすべらない話 第35弾より

古舘伊知郎「「おき」と「ごと」の違い」

セリフ左:古舘伊知郎

これはね僕の勝手な言葉に対するこだわりが強いのかもしれないんで申し訳ないかもしれないんですけど。
去年2019年の5月ですかね。
松本人志さんとたまたま飲む機会があったんですよ。
かなりお互いに酔っぱらってたんですけど。
ちょうど令和に切り替わる瞬間だったんで「松っちゃん。12時またいだ!」みたいな。
何だか分かんないけどおめでとうとか言い合う感じに。
そしたらちょっとたってから「古さん言葉に対するこだわりが強いんで聞いてみたいことあるんですわ」って。
「いやぁ。何でもっつうわけいかないけど」っつって勢いで言った。
そしたらはっきり覚えてんだけど。
「『おき』と『ごと』の違いって何すか?」みたいなこと言って。
「おかしいんですよ」松っちゃん言うわけ。
「あの男は30秒おきにドアをノックしやがった」
「あの男は30秒ごとにノックをした」
「おんなじですよね。だけど何なんすかね?」
「1年おきに来るんだよあいつ」
「1年ごとに必ず来るんだよ」意味違ってきますよね?
1年ぽんとおくとかおかないとか。
「これどう違いがあってどこが似てんですか?」みたいなことを言ってくれたから
ものすごい勢いに乗って言おうと思ったんだけど正解見いだせてないんですよ。俺。
だけど引っ込みつかない。見えっ張りで。
言葉で振られたからどんって返そうと思って勢いだけ。
「あのね。松っちゃんね『おき』っていうのは一度分断されるんですよ。ニュアンスが」
「飛び石連休の飛び石みたいなもんですよ」
「『おき』って1日おきにこの薬服用してくださいってことは1日おくんだから一度分断される」
「ところが『ごと』ってのは毎日の『毎』だから連続性を持ってる」と。ねっ。
「1日ごとにっつったら1日に1回飲むんだからずっと続いていく。この違いがはっきりしてますよね」って辛うじて言った。
これが正解だと分かってないけど言った。
そしたら「そういうふうにすぐ返すとこがすごいんですわ」っつって違う話になったの。
まったく納得できない。自分自身が。
やっぱり天下の松本人志に嘘とは言わないけどニュアンスだけで逃げた自分も許せない。
ほいでだいぶ遅くなって別れてからうち帰って寝るまでもうね首っ引きですよ。
このスマホと。ほいで徹底的に検索した。
したらねやっぱり国語教師用にちゃんとマニュアルみたいなのがあって。
いっぱい書いてあるんですよ。
「おき」と「ごと」の違いに気を付けて。
あるいは英会話を教えてる先生にも英文に直したら大変なことなんで気を付けてくださいっていうそういう例はいっぱい載ってんですけど。
そこで辛うじて分かったのは…。
ちっちゃい単位のときはおんなじなんですよ。
「1時間おきに起きちゃった」
「1時間ごとに目覚めちゃった」おんなじなんですよ。
ところが小さい単位じゃなくて長い単位になって。
例えばオリンピック。3年おきに開かれるでしょ?
4年ごとに開かれてるんですよ。変わってくんですよ。
だから小さい単位の場合は同じなんだけど
離れたら二股に分かれて意味が変わってくる。
何やそれ!?
それ分かったんだけどまったく納得できないんですよ。
これだけだったら電話もできないですよ僕。
どっから枝分かれするかが出てないから。
いらいらいらいらして。
松本人志にきちっと言いたいって。
あのとき逃げ切っちゃったから。
だからどうしようかなと思ったけどついに国語学者の金田一先生に電話したんです。
金田一京助。金田一春彦。金田一秀穂さん。
まさに国語界の世襲制。ねっ。
そこにフジテレビで一緒に番組やってたことあったからディレクターから電話番号聞いて。
申し訳なかったんだけど電話した。一念発起で。
そしたら留守電で結果的に地方行ってたみたい。
留守電になっちゃうんだけど。
久しぶりだから気が引けるんですよ。
「大変申し訳ない。たまたま朝日新聞で3日前の朝刊に載っていたオピニオンのところで先生の言葉に対するこだわりのところを専門領域でお聞きいたしまして。
このごろは若い方々が『コンビニさんを曲がって』とか『スタッフさんに元気づけてもらって』とかみんなさん付け関西の人じゃないのにしますけどあれは本当に間違いであれは素晴らしいことでした」って留守電にどうでもいいこと一生懸命入れたの。
「それはさておきある方から『おき』と『ごと』の違いを聞いて私がしっかり答えられなかったのが憤まんやる方ないんで先生に教えていただきたい」って
3日連続でやったけど返しないんですよ。
嫌われてんのかなと思ったんだけど4日目に「地方から帰ってきました」
「古さん。何事ですか?」って電話あったの。
でもううれしくなって…。
名前出しちゃいけないと思ったんで「ある方が『おき』と『ごと』の違い」
「どっから分かれんだっていうのを聞いててね」
「単位がちっちゃいとかおっきいとかで変わるっていうのは辛うじて分かったんですけど先生教えてください」っつったらケラケラって笑って
「よく来るんです。われわれの国語界の世界では定番の疑問質問です」って。
うわ。教えてくれるんだと思って「どっから分かれますか?」と。
「『1日おき』と『1日ごと』変わってくるし。長い単位のどこがボーダーラインで意味が変わってくるんですか?」
「まったく意味はありません」って言われたの。
「どういうことですか?」って言ったら
「われわれ言語界の中でもはっきり言えます」
「謎なんです。答えは分からないんです」
「えっ?枝分かれしてる瞬間も何もない?」
「何にもありません。そこに数字が乗ってきて『24時間ごと』とか『24時間おき』とか例えばそういう複雑な数字が絡み合ったときでも個人差があって『おき』と『ごと』一緒っていう局面と人によっては違う意味が」っていうんで。
神学論争っつってね神様の学問で論争し始めると答えが出ないっていう。
「神学論争で謎のまんまです」とはっきり答えをくれたんです。
以上この『すべらない話』に代えさせていただきたいと。
ありがとうございます。
すごい。
謎だったんです。
答えがないというのが答えなんですね?
ええ。すごいとこに着目してんですだから。着想が。
いやぁ。なるほどね。
これね僕も…。あれから僕も考えてたんですよ。
2日ごとにゴリラにどつかれるのと。
2日おきにゴリラにどつかれるのはやっぱちょっと違うなって思わない?
2日おきだとゴリラは休憩してくれてる。
してくれてる感じがするでしょ?ちょっと助かるんですよ。
月曜日にゴリラにどつかれたら2日おきやったら木曜日まで何か火水は楽できるなって感じするんです。
ゴリラ休んでますよね。
でも「ごと」は何かもうあと2日。あと1日でどつかれるっていう恐怖心がずっとある。
水曜の感じありますね。水曜の感じがある。
ゴリラはゴリラで思うやろうしね。
2日ごとにどつくのもだるいなって。
おきたいな。
ただ二頭筋すごいからね。ゴリラは。
そこ広げなくていいです。
何ちゅう話や。
知的な広げ方。


その他の、人志松本のすべらない話はこちら

コメント